【美容師についての疑問】国家資格と現実

      2016/03/28

よくお客様に「美容師は国家資格でよいですね!」とか「国家試験を受かれば髪の毛切れるようになるんですか?」というご質問を承ることがあるのですが、正直、国家試験を受け、国家資格を所得しただけでは、お客様の髪の毛を切ることはできません(物理的には可能ですが)。

今回は、あまり皆様の知らない世界。美容師国家資格と現実の美容師についてほんのり詳しくお伝えいたします。

 

 

 

美容師って、髪の毛切れる人ですよね?

ちなみに今回は美容師国家試験についての詳しい内容については割愛させていただきます。

※詳しく知りたい方はこちらをどうぞ→美容師国家試験の概要

 

さて、今日の日本では美容室勤務者は概ね、上記の国家試験をパスした国家資格保有者が、美容師として勤務しております。しかしながら、美容室において髪の毛を切る役割はスタイリストに与えられており、美容師なら誰でも最初からスタイリストとしての役割を担えるわけではありません。美容室ごとに様々なカリキュラムが存在し一定の期間、専門的なトレーニングを反復し、カット技術、および相当の知識を身につけたと判断された人のみが、スタイリストとしてお客様の大切な髪の毛を切ることが可能になります。(カット以外の技術しかできない人をアシスタントと呼び、カラーやパーマ、シャンプーなどの業務に携わります。)

 

わかりやすく説明するために、美容師(アシスタント)がスタイリストになる為に課せられるカリキュラムをここで詳しく説明させていただきますと、

  • ベーシックカット(基本のスタイルの理解や、カットの基本技術)
  • カットモデル(実際に人間の髪の毛をカット&スタイリングする)
  • デザイニング(デッサンや写真、その他様々なプロダクツのデザイン研究)

のようなものがあり、概ねどのような美容室でもある程度、上記の三属性に分別することができるかと思います。以下は上記について、一般の方にもわかりやすいような説明をしてゆきます。

 

 

髪の毛を切れるスタイリストとは、実際にどのようなトレーニングを行い、スタイリストになったのか?

ベーシックカット

“基本的な髪型のパターンを、ウィッグ(髪の毛の付いたマネキン)を使用し、規定時間内に切る”および、”様々なカット技法(数種あるハサミの開閉の仕方、濡れた髪をまっすぐ切る、乾いた髪の効果的な切り方等)を習得する”等です。これにより、基本的な髪型の切り方と、様々なハサミの使用方法が学べます。

そして、基本的なパターンの髪型(ワンレングスボブや、ショートレイヤー等)の規定は少なくて3〜5、多くて10〜20などあり、これも美容室ごとに様々です。国家資格のように厳密な数もなく、ようするにあいまいです。

 

カットモデル

実際の人物の髪の毛をカットし、スタイリングし、髪型を創るトレーニングのことです。これにより、任意の髪型を実際の人間の髪質、頭の形を計算しながら切ることを学ぶことができ、カウンセリングの重要性も理解します。

これについても、美容室で規定がかなり異なり、例えば、”Aのパターンの髪型を3名、Bのパターンの髪型を5名、Cのパターンの〜(略)”といった具体的なものから、”合計で◯◯◯人”と純粋に人数を求めてくるものもあり、その具体的な人数設定も美容室ごとに様々です。多い人は500人以上やってる人もいます。もちろん国家資格の定める、美容師法などにはまったく関係ありません。

 

デザイニング

サロンワークには直接的には関係ありませんが、デッサンをしたり(髪型であったり、そうでなかったり)、写真をとったり(髪型であったりそうでなかったり)とデザイン領域の勉強を行います。これにより、自分の創造性やセンスを磨きます。とくにシューティング(写真撮影)の技術は非常に難易度が高く、スタイリストになってからが本番とも言えます。

しかし、この分野をカリキュラムに添えていない美容室も多く存在し、もちろん国家資格との関連性もありません。

 

上記のようなトレーニングを、カリキュラムレッスンとして、または自発的に行います。どのジャンルのトレーニングも非常に重要性が高く、スタイリストにとっては基礎となるとても大切な時間です。

 

※カットのトレーニングについてのみ詳しく解説させていただきましたが、美容師には当然この他にも、カラー、パーマ、シャンプー、ブロー、セットアップ、メイクアップ等、多くの様々なトレーニング分野が存在します。

 

 

では、実際にどのような基準で、誰に、スタイリストとして認められたのか?

そしてここからが重要なのですが、

美容室によって、上記の育成プログラムの詳細、期間、基準は、多種多様、それぞれに異なります。

つまり美容室によって、どのようなスタイリストへとなれるかが変わってきます。

 

そしてその判断基準はというと、、、。

その人物にしかるべき成果が見て取れるようになり、お客様にも価値を感じて頂けるようになったと、美容室の首脳陣が認めてはじめて、お客様のカットに携われる(スタイリスト)ようになります。

要するに、美容室単位でも規定の基準が違うトレーニングが行われているという現実です。

 

国家資格とは関係なく、また”美容室によって育成プログラムは異なる”、そして、”その判断基準も美容室によって異なる”為、美容室のスタイリスト(カット)の実力は様々です。

 

 

何か問題でもありますか?

と、ここまで、美容師国家資格と美容室の教育体制の矛盾を痛快に述べてはまいりましたが、個人的には特に批判するつもりりは今のところありません。カリキュラムも作成する立場であるので、「他店よりも優秀なカッターを育てたい」や「他店にない魅力あるメニュー作成」の気持ちの方が大きく、資本主義論に侵された頭を毎日こねくり回し、新しい価値の創造や他店との差別化を模索し続けている次第であります。

 

何故なら、全国の美容師すべてが同じ実力で、同じレベルのヘアースタイルを提供していたら、付加価値が存在しないからです。なので、「ボブならこのサロン!」とか「ダブルカラーならここが!」といった特化した魅力のある美容室が存在することも当たり前であります。お客様もその特化した実力や、付加価値を求めていると思います。

 

しかし、問題は微小ではありますが、やはり感じます。下記に挙げると、

  • そのジャッジする基準が各美容室のマネージャー陣であり、それは国家資格とは関係のない領域であること。
  • 適切な育成プログラムにそって訓練したとしても、その個人個人にもやはり特徴があり、センスの感覚も異なる、ということ。

一見、何の問題もないように思います。むしろ、店舗差、個人差があって当然、魅力の部分でもあるかと思います。

 

 

曖昧さ回避

ぼくが問題に感じるのは、そこではなく”価値判断基準があいまい”であるということです。

そもそも、ジャッジの基準が美容室の首脳陣であったのならば、国家試験の存在意義が希薄に感じられます。現実として、国家試験には受かった美容師がスタイリストとしてハサミを握らず、美容師を辞めていくことはそう珍しいことではありません。事実、何人もそのような姿を目にしてきました。

上記でも少し触れましたが、個人差による技術レベルの差は確実に存在しますし、成長スピードやモチベーションのバイオグラフィにも当然個体差があります。不器用でも忍耐強く訓練を重ね、スタイリストになる精神面の強い人物もいれば、器用で感覚的なセンスやファッションを兼ね備えた人物でも、ドロップアウトしてしまう例も少なくありません。

甘いことを言っていることは承知です。実力のあるものは価値を生産することができます。そして、実力がないと判断されたものには、価値を生産する機会さえ与えられないという現実も、痛いほど理解しています。プロスポーツの世界や、政界、芸能界、、、。枚挙に遑がありませんが、美容業界にも同じことが言えます。

 

ですが、その判断を下す側(現状として、厚生省ではなく、各美容室の首脳陣)には、あいまいさは不要であると思います。

 

別にあいまいでも良いのですが、商品には適正価格というものがあります。そして、その価格を美容の”カット”というジャンルに当てはめることが非常に難しいという事実があります。価値判断基準は多少あいまいでも良いかとは思いますが、“価格”に関してはあいまいではいけないと思っています。

 

 

実際の価値と、実際の価格

その人物に対する、カットの適正価格。美容室によっては、一律であったり、役職(店長、ディレクター、トップスタイリスト、スタイリスト等)でカットの値段が異なる場合もあります。一人で美容室をされている方は、周りの美容室の価格をマーケティングしながらの設定であったり、あえて差別化を図り大幅にずらした設定なども存在します。

価格は高くても安くても理由があるのであれば、いくらでも良いかとは思いますが、けっして少ない金額ではないと思いますので、そこに適した基準が存在することを希望します。その以前に、各美容室の抱える教育過程での判断があり、さらにその根源には、美容師国家試験という国家資格という名の下に判断される機会があります。その国家資格が、価値が発生するお客様との現場に、全くと言ってもいいほど感じられません。生産と消費の瞬間に大きな金銭の移動があるにもかかわらず、国家資格は特に意識もされていない事に、美容師の価値の現状がかいま見え、正直少し寂しくもなります。

 

 

美容師の価値と、国家資格

今回は非常に長くなりましたが、ぼくが感じている事は、

美容師の価値についてです。

冒頭でも述べましたが、「美容師は国家資格でよいですね!」とお客様からお声がけしてくださる事に、ぼく自身は誇りを持っています。

そして、このブログでも再三にわたり、美容師の可能性について述べてきました。そしてこれからも当然研究をし続け、お客様に喜んでいただく事によって、新しい価値を創造し続けてゆきたいと思っています。

その価値をもっともっと、自分たち美容師が高めてゆきたいと思っています。その一歩目として、自分の肩書きとして備えられる”美容師国家資格”というものに、もっと価値が見出せられるような日をいつか感じたいと思っています。

 

 

 

 

※ちなみに今回記事にしたことについては、賛否両論があるかとは思いますが(特に同業の方からの)、別に隠しているわけでもありませんし、オープンにしたくない事柄なわけではありません。たぶん当たり前のことです。しかし、美容師以外の方にはほとんど認識されていない事象であるかと思います。なので、知って頂いてもよいかと思い記事に起こしました。むしろ、知って頂いた方がお互いの信頼関係も築きやすいと思いますし、お客様も少しは安心かと思います。この様なぼくらの業界の当たり前のことを聞いても、濁して言い淀むような方にお願いすることの方が、ぼくは不安です。乱文乱筆、失礼いたしました。

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